にこ📚

人生は物語。

軽快に、しかし深く人間について考える「横浜大戦争」

タイトルに騙されるなかれ。

この本は戦国時代の話ではないし、横浜で起こった事実に基づいているわけでもないのです。

 

横浜大戦争は、横浜を舞台にそれぞれの区にいる土地神たちが、ナンバー1を巡って「戦争」をする物語です。

 

横浜の知識がつく(笑)

ここはタイトルからも分かる通り、「横浜」を舞台にしているので、横浜の各区には何があるのかや区の成立年の前後など、横浜について詳しくなれます。

 

正直、横浜といえばみなとみらいと想像することが多いですが、この本を読むと、「へえ、横浜って意外と広いのね」と、驚く人も多いことでしょう。

 

また、土地神の性格や「神器」と呼ばれる必殺技のようなものも各区を表していて面白いです。

やはり、ものや場所を擬人化するとすっとはいってきやすかったり、より理解が深まったり、愛着が沸きますね。最近は刀が戦ったり、段ボールが戦ったり…なんでも戦っちゃいます。すごいですね。

 

話がそれましたが、土地神や戦地を通して横浜のこと知ることができる、横浜の教科書でもあると思いました。

 

 

人間とはどんな生き物か

土地神も人間の姿をして、大学に通っていたり、会社で働いていたり、バーテンダーをしていたりと、人間と同じように生きている神もいます。それに、彼らはそれぞれに個性があり、平穏な神もいれば短気な神もいる。そしてみんな不完全なのです。

 

だから、読んでいっても彼らを「神」としてというよりも、私たちと同じ「人間」として見てしまいがちです。

 

しかし人間より歳をとるのが遅かったり、神器をもっていたりと、やはり人間ではないと実感する部分があるのです。

 

そんな「やっぱり違う」神から見た人間像が、つまり私たちを客観的に見たらどうか、という視点が新鮮です。

私たちはある神には非合理的に見え、ある神には美しいものに見え…

 

そして、非合理なのも美しいのも、私たちがもつ、愛や心なのだと思いました。

 

非合理で美しい愛や心は、人間にとって何があってもなくしてはならない、人間のもつ「神器」なのではないでしょうか。

 

 

戦争はなぜ起こるのかという深層心理

また、神であっても戦争に対する憎しみや人間を何とか助けたいという思いの強さを感じられる場面があり、感動するとともに、だからこそ戦争はなくならないのかもしれない、というやりきれない思いにもなりました。

 

誰しも、誰かを傷つけたいと思って始めるわけではない。誰かを守るために、誰かに報いるために。必ず、自分以外の誰かを思いながら、それは始まるのです。

 

それが神であっても、人々への思いがあるからこそエスカレートしてしまう。特定の誰かが悪いのか?原因は循環的なのではないだろうか?

 

この時代にそんなことを考えさせられた、深い作品でした。