結婚は人生の墓場「か?」
パンチのきいたタイトル。それを強調するかのようにでかでかと書かれた表紙。
タイトルを見た瞬間、吸い込まれるように手に取っていました。あまりにも的を射たタイトルなので、ブログタイトルもそのままにしてしまいました。
姫野カオルコさんの作品を読むのは今回が初めてですが、威力がすごかった。
結婚は人生の墓場か?というタイトルを見た瞬間、「ああ、結婚して専業主婦になった女性が、家事におしこめられ社会生活を制限される状況を、墓場だと言いたいんだな」と思いました。
しかし、それは勘違いでした。「結婚は人生の墓場だ」と思っているのは男性のほう。ヒステリックでお嬢様な妻に振り回されていく男性のお話でした。
けれども、本を読んだ後に思ったのは、「結婚は人生の墓場なのだろうか…?」ということです。まさにタイトル通り。
妻・雪穂
「お嫁部隊」として、見事高収入の夫を手に入れた雪穂は、幼稚園から私立のお嬢様校に通っていた生粋のお嬢様。行動の不可解さに驚かされます。中でも私が理解できなかった三大不可解を紹介しようと思います。
①高収入の夫に対し「お金が足りない」
作中、夫婦は何度も引っ越しをします。それは、子どもができたから、とか、親が心配だからというだけではなく、「元首相が亡くなったから」だったりするのです。そして、引っ越しは勝手に決めて事後報告。ボルボも勝手に買ってきて、事後報告。
子ども二人を高額な学費の私立に通わせ、それでも「パパの収入が少ないのよ」
②「だから公立はいやなのよ」
雪穂からすれば、公立は野蛮で常識のない人たちの集まり。
私の行動の背景を言葉なしに理解しろ、分からないのは公立だからだ。東大じゃないからだ。
公立だから、パパは私のことを理解してくれないという発言には、もやっとしました。
③こどもの情操教育
こどもの情操教育のために家を引っ越すこともしばしばありましたが、犬も飼い始めました。しかし、フタを開けてみると、散歩は夫に任せきり、「汚いから」とおむつをはかせケージに閉じ込める…
雪穂はすべて、悪気がひとつもないのです。素直なのです。だからこそ客観的に見てこわい。
しかし、小早川目線で、元同僚のミコちゃん目線で、教授目線で、作家の姫野目線で雪穂が語られるが、雪穂の目線で語られたことは一度もないのです。
だから、見えていないことがあるかもしれないとも思ってしまいます。なぜ雪穂は怒っているのか。泣いているのか。なぜお金がたりないのか。
しこめのいいわけ
主人公は出版社勤めということもあり、たびたび他の作品が出てくることがあります。中でも人気の出た『しこめのいいわけ』には、男性に媚びる女性の本質が書かれているように感じました。
『しこめのいいわけ』によると、「醜女=しこめ」とは、30歳以上で結婚しておらず子どももいない女性のこと。
これに対し、「美女」として対置される、結婚のできた女性は、「しこめ」に対し、
家庭環境に恵まれ頭もよくって、いい大学を出ていい仕事を見つけられた、おまけに美人でスタイルが良い。だから結婚しないで、恋愛を楽しんでいられる。
それに対して自分たちは、生きていくために、男に媚びてでも結婚をしなくてはならない。
と、思っている。
頭が悪いから、自分がないから、男に媚びて早く結婚して早く仕事を辞めるのが「美女」というわけではないことがよくわかる文章だなと思いました。むしろ、生きていくために、ある意味上昇婚と言える、戦略的に結婚をした、しなければならなかった女性たちだと言えます。
美女の苦悩が垣間見え、同時に、男女格差という大きな課題に、女女格差というもう一つの課題が追加されたように感じました。
結婚は人生の墓場か?
タイトルに立ち戻り、結婚は人生の墓場なのだろうかと、考えてみました。
夫・小早川の目線で言えば、「そうだ」と言えるかもしれない。けれど、他に登場する夫婦は必ずしもそうではない。
作者はあとがきで、配偶者のひとつの行動で、至福な結婚生活になるかもしれないと語っています。
これは、小早川の場合「妻を愛すること」ということだったと言えると思います。
少子化が問題となっている現在、未婚化もその一つの原因ですが、じゃあ結婚すればいいのか?子どもができればいいのか?結婚して子供ができたこの夫婦の「間違えた感」を見れば、そうではないことが分かります。
少子化問題や未婚化問題で話題になるのは、主に補償です。けれど、それ以前に、結婚とは一対一の関係です。第一に、相手を愛しているかどうか。こどもの頃はすべての夫婦がそうだと、当たり前だと思っていた大事なその部分を抜きにして、未婚は説明がつかないのではないでしょうか。
だから、結婚は簡単に決めていいことではない。補償を充実させても解決しない部分が結婚にはあるのではないか?とこの本を読んで思いました。