つべこべ言わずに恋したくなる本「あおい」

素直に生きられているだろうか。

「あおい」を読んで私はそう思いました。

心が感じることに素直になるのは難しくて、それは頭が邪魔してくるから。

この本を読むと、心配なんて余計でどうでもいいと思えます。

あおい (小学館文庫)

あおい【電子書籍】[ 西加奈子 ]

なんでカザマ君？

主人公「さっちゃん」は年下彼氏の「カザマ君」と同棲しています。このカザマ君という男が強烈で、最初は正直、なぜこの人と付き合っているんだろう？と思ってしまうほどでした。3浪している学生だし、髪もボサボサ、ガリガリ…

だからなかなか近寄りがたい変人だと思いきや、これがモテるらしい。

さっちゃんのフィルターを通して私が見たカザマ君は、愛おしいくらい変で、理屈が通らなくて、細すぎて守ってあげたくなる。でも時折見せる優しい表情や優しい声は全て包み込んでくれる。それらがすべてカザマ君らしくて、つまり大好き。

さっちゃんフィルターはカザマ君プロデュース力が強すぎて、読む人みんなをカザマ君の虜にしそうです。

「何が好き」って言葉にできない。だけど心から大好きだと思う。それが恋なんです。そうさっちゃんに言われているような気さえします。

覚悟なんて誰にもできていない

カザマ君との子どもができたさっちゃんは、自分でも驚くほど不安を感じ、居ても立っても居られなくなったのか、住み込みバイトをするために長野へ出ていきます。

妊娠ってそれくらい人を不安にさせるものなのですね。私は経験がないので分からないですが、どんなに計画をしてきた人でも、覚悟ができていることではないのではないでしょうか。

耐えられないくらい痛いだろうな、こんな私が幸せな子を育てられるのだろうか、お金は足りるかな、この子がいじめられたらどうしよう、仲のいい家族にできるだろうか…

不安は次から次へとやってきて、拭うことはできないのです。

さっちゃんは、あまり自分に自信がない方で自分の意見をはっきり話したりすることを諦めているように見えました。しかし不安とともに、自分が生きていること、自分の中にもうひとつ命があることを実感して、頑張らなきゃ、と踏み出すこともできたのです。

覚悟なんてできてないし準備もできてないけど、少し強くなれる。不安だけじゃないみたいです。

みいちゃんは、西さん？

さっちゃんは「みいちゃん」という仲の良い友達ができます。

私はみいちゃんが、西さんなのではないかと思いました。

みいちゃんは作家になりたい、というより、いつか小説を書く、と「分かっている」。でもその時が来るまで言葉をためて待っている。

西さんも小説を書くのに、「感情をためてから書かないとだめだ」と言われ、満を持してこの「あおい」を書きあげます。

「感情をためる」「言葉をためる」すごく似ているなと思いました。

そして、みいちゃんが書き始めたのと同じように、西さんもあおいを書きあげた。

また、みいちゃんは小説を書き始めたら痩せると言い出します。自分を切り売りすることだからと。

西さんもそんな風に考えているんだったらすごく面白い感性だなと、けれど書かなければその意味は理解できないから、やっぱり私も小説を書いて、あわよくば多くの人に届けたいななんて思ったりもします。そしてあわよくば、痩せたい(笑)

さいごに

やはり小説って読むときによって全く感じ方が違って、初めてあおいを読んだのは中学生の頃でした。

その時はドキドキする描写や（西さんの本ってだいたいそれがあるけど）、恋が印象に残っていたけれど、今読むとより、「心の存在」の大切さに気付くのです。

心が一番初めに動くはずなのに、年々頭で蓋をしてしまっているように感じて、そのことに気づいていない自分に気づいて、埃被った感性を磨かなければと気づかされました。そうやって恋や夢を見つけていきたい、そう思いました。